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『長い散歩』 [邦画(ナ行)]

「長い散歩」(’06)★★★★☆75点

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昨年亡くなった緒方拳にとっての最後の主演映画。
自分の家庭で失敗した老人・安田松太郎。
虐待を受ける幼女を連れ、青空を求めてさまよう松太郎の苛立ちと悲哀が全編にあふれている。
緒方拳という俳優の人間味があってこその見事な演技。
自身の晩年と重なって、俳優として、一個人としての集大成といっても過言ではなかろう。

さて、モントリオール映画祭でグランプリまで獲ったこの映画。
奥田瑛二監督を評価したい。

が、しかしだ。
製作費を抑えたいという経済事情もあったのかもしれないが
キャストとしても出演している彼。
やはり俳優としても目立ちたいのだろう。
彼が演じる刑事が「安田のような人間が必要だ」といった台詞があるが
これは語らずともこの作品の根幹に流れているものであり、台詞として語らせる必要のないものだ。
この台詞を聞いた瞬間に、短絡的だなとガッカリしてしまった。
キーワードは自分が言いたい。
監督・脚本も担当するが故の弊害だ。

子役や松太郎の姿を突然インサートするカットの多用(テクニックとしての名称を知らないので申し訳ない)は
効果的とは言いがたく、全くいただけない。

警察署を前に言葉に詰まって泣きじゃくる松太郎を、サチがなだめる。
そこへ人が立ち止まり、だんだん増えて大集団に取り囲まれるのだが
殺伐とした現代、泣いている老人と幼子にそんなに関心を持つ人などほとんどいないはず。
立ち止まってもすぐに行き過ぎるなら理解できるが
誰一人声をかけずにただただ人が集まり続けるのは不自然だ。
また、覗き込む人たちはいかにもエキストラで、表情が死んでいる。
引きの画(え)になってそのシーンは終わる。
直接的に出頭させたくなかったのだろうが、そうであっても他にも撮り方はいくらでもあろう。
技術的にも、馬脚を現した形だ。

私の先入観もあるだろうが
合コン仲間の津川正彦が安っぽい医者を演じたり
妻や娘たちがクレジットに登場したりと
ちょっとプロフェッショナリズムに欠ける印象が残る。

余談だが、テレビ放映後のレビュー番組で
山本晋也、渡辺俊雄が子役の杉浦花菜を「演技が上手い」と評していた。
私にはあの子が考えて演技などしている風に思えない。
台詞的にも棒読みの極みだが
虐待を受け普通のコミュニケーションが取れなくなったという設定だからこそ
生きたキャスティングであり、演技が上手いのでなく、素材として素晴らしかったということだ。
山本監督は、昼間のニュースバラエティでも見かけるが
政治オンチ、社会オンチにとどまらず、
クリエイティブな部分においても、その発言はまったく見識を疑うね。

『女系家族』 [邦画(ナ行)]

「女系家族」(’63)★★★★☆80点

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テレビドラマでも再三映像化された山崎豊子の小説、唯一の映画。
米倉涼子が主演した一番新しいテレビドラマを観たことはあった。
時代背景を考えると、
やはり60年代に製作されたこの映画が断然いい。

女の業の深さにおいても、えげつないこと極まりなし。
これぞ女系といった印象を与えてくれる。
なかでも、
三女・雛子を養女に迎え入れその相続財産を我が物にしようという
叔母・芳子を演ずる浪花千栄子が抜群。
子供の頃、醜い相続争いを目の当たりにしたことのある私には
とてもリアルなものに感じた。

2代目中村鴈治郎が大番頭の宇一を演じている。
老舗をしっかり守るそつの無さと、
その裏で姑息に動き回るセコさは見事の一言。

静かに匂い立つ、若尾文子の陰ある色気も特筆もの。

惜しむらくは
宇一による山林の私物化を追及するくだりや
長女・藤代(京マチ子)と梅村芳三郎(田宮二郎)の駆け引きをはじめ
もっと掘り下げて欲しい部分を多く感じる点。

映画がこの1本に対してTVドラマが8本、からも分かるように
2時間足らずで描くには内容が濃すぎるのだ。
この内容・このキャストなら、
3時間の大作になっても冗長的になることはない。

『暖簾』 [邦画(ナ行)]

「暖簾」(’58)★★★★☆75点

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十五で丁稚になってから、暖簾分けを得、昆布に人生を賭けた
八田吾平の一生を描く。
原作は山崎豊子のデビュー作。
「白い巨塔」「華麗なる一族」「沈まぬ太陽」といった
社会派の印象が強かったが
先日観た「花のれん」や「女系家族」など、
昭和初期の商人や家族を中心とした風俗を生き生きと描いている。

森繁は主役・吾平とその次男・孝平の二役を演じている。
この時代に、映像で親子2代を演じさせていることにまずビックリ。
乙羽信子しかり、「花のれん」の淡島千景といい、
この時代の俳優が、
娘や青年から老けまでごく自然に演じているのにも感心しきり。
モラトリアム全盛の今と違い
世間自体が若い頃から成熟していたのかもしれない。
それにしても、
あの畳みかけるような台詞回しは森繁の真骨頂といったところ。

「女系家族」で圧巻の演技を見せ付けることになるが
出番の少ない浪花千栄子と中村鴈治郎に
ついつい目がいってしまうのは、さすがの存在感というほかない。

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