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『ブロークン・フラワーズ』 [洋画(ハ行)]

「ブロークン・フラワーズ」(2005)★★★★☆80点
原題: BROKEN FLOWERS
監督・脚本: ジム・ジャームッシュ
製作: ジョン・キリク、ステイシー・スミス
撮影: フレデリック・エルムズ
プロダクションデザイン: マーク・フリードバーグ
衣装デザイン: ジョン・A・ダン
編集: ジェイ・ラビノウィッツ
出演:
 ビル・マーレイ(ドン・ジョンストン)
 ジェフリー・ライト(ウィンストン)
 シャロン・ストーン(ローラ)
 フランセス・コンロイ(ドーラ)
 ジェシカ・ラング(カルメン)
 ティルダ・スウィントン(ペニー)
 ジュリー・デルピー(シェリー)
 クロエ・セヴィニー
 アレクシス・ジーナ
 マーク・ウェバー
受賞:
 カンヌ国際映画祭
  ■審査員特別グランプリ ジム・ジャームッシュ
製作・ジャンル: 米国/ドラマ・コメディ/106分

ブロークンフラワーズ [DVD]








監督はJ・ジャームッシュ。
プロとしての処女作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」、
「ダウン・バイ・ロー」、
永瀬正敏と工藤夕貴が出演した「ミステリー・トレイン」など
ロードムービーの印象が強い。
とは言うものの
私は、宣伝や断片的な映像を見たことがあるだけで
いずれの作品も、本編を観た記憶はないのだが。

この映画も
差出人不明の一通の手紙をきっかけに、
昔の恋人たちを訪ねて歩く物語だ。

パソコンで物を書くのが普通になっている現在、
活版によって、文字の濃淡が浮き出るタイプライターの文字は
味があって懐かしい。
郷愁を誘うその書体が、タイトルやクレジットに使われている。
そして、ストーリーの口火となる手紙は
タイプライターで書かれているという流れだ。

タイプライターといって私が思い浮かべるのは
子供の頃、毎日のように論文をタイプしていた父親の姿、
学生時代の、ディベートための資料作り、
劇団の研究生の時に
小道具として用いたT・ウィリアムズの「ロング・グッドバイ」。
私には、縁浅からぬアナログ機器である。

また、シーンの溶暗にも、アナログな効果を導入している。
ブラックアウトする寸前、映像が
フィルムの反転ネガのように、かすかな残像を残す。

主人公の名前は、ドン・ファンことドン・ジョンストン。
ドン・ジョンソンに引っ掛けた名前も、色男を暗喩している。

ドン・ジョンソンと言えば
80年代は「特捜刑事マイアミバイス」でスターダムを駆け上がり、
90年代半ばからは「刑事ナッシュ・ブリッジス」で再び注目を浴びた
自他共に認めるセクシーでワイルドな俳優である。

ドンをけしかけ、旅に送り出すお節介なウィンストン。
彼がドンの為に用意し、全編を通じ断片的に流れるエチオピア音楽。
その音楽が、このロード・ムービーを
またまた、言い知れないアンニュイで哀愁に満ちたものにしている。

ベッドを共にした翌朝。
ローラの唇がだらしなくドンの顔に触れている様は
飾らない自然な画を演出したかったのだろうが、
逆にその意図が鼻について、悪い意味で気になった。
エロ気を前面に出さないS・ストーンの、
自然体の演技にはとても好感を持った。

終始、ローテンションのドン。
怒り叫ぶコメディアンのイメージの強いB・マーレイが、
ジャームッシュの演出のもと
あえて、決して激することのないキャラクターとして演じることで、
観客はいつの間にか、ドンに親しみを覚え
彼と共に、人生の哀歓を共有するのである。

もちろん、同じストーリーを
ハイテンションで描き切ることも可能だろうが、
この作品の主人公の低いトーンこそが、
彼の存在とストーリーに、リアリティをいや増している。

また、最後まで何の答えも出ないところにも
リアリティを感じる作品である。

カンヌ映画祭の審査員グランプリを受賞した本作。
その支持に納得の傑作と言えよう。

それにしても、
20年前の恋人たちを訪ね歩くなんて
自分に照らして考えると、ずいぶん悪趣味な話だ。
接触を持たないという条件づきならば、
歳月を重ねた彼女たちの姿を覗き見たい気はする。
だが、ドン同様に
お互いの現実を比較しては
相手を貶めたり、現在の自らを蔑んだりするはめになるのがオチで
ろくな旅にならないのが実際のところではないだろうか。
 
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