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『源氏物語 浮舟』 [邦画(カ行)]

「源氏物語 浮舟」(1957)★★★☆70点
監督・脚本: 衣笠貞之助
脚本: 八尋不二
製作: 永田雅一
企画: 辻久一
原作: 北条秀司
撮影: 竹村康和
録音: 大谷巌
照明: 加藤庄之丞
美術: 太田誠一、山中伸吉
音楽: 斎藤一郎
和楽: 中本利生
音響効果: 倉嶋暢
編集: 西田重雄
出演:
 長谷川一夫(薫の君、光源氏の嫡子・大納言)
 山本富士子(浮舟、中の君の妹)
 市川雷蔵(匂宮、皇子)
 乙羽信子(中の君、匂宮の北の方)
 三益愛子(中将、浮舟の母)
 松浦築枝(弁の尼)
 夏目俊二(右近小納言)
 阿井美千子(早蕨、右近の北の方)
 中村玉緒(浮舟の侍従)
 山路義人(時方、匂宮の供人)
 花市辰男(兵部、薫の供人)
 中村鴈治郎(帝)
 浦路洋子(二の宮、皇女)
 柳永二郎(白藤の大臣、蔵人所別当)
 浪花千栄子(浦風、薫の館女房)
 藤間紫(小篠、中の君の館女房)
 大美輝子(山の尾、中の君の館女房)
 朝雲照代(園生、中の君の館女房)
 浜世津子(高瀬、後凉殿の命婦)
 橘公子(山路)
 毛利菊枝(衛門、乳母)
 石原須磨男(桑鴈、薫の君の従者)
 玉置一恵(花鶏、薫の君の従者)
 堀北幸夫(蒿雀、薫の君の従者)
 横山文彦(平鰤、匂宮の従者)
 菊野昌代士(真鯒、匂宮の従者)
 藤川準(匂宮の従者)
 種井信子(若菜、浮舟の侍従)
 小林加奈枝(老婆)
製作・配給・ジャンル: 大映/大映/時代劇・ドラマ/119分

源氏物語 浮舟 [DVD]








源氏物語「宇治十帖」のひとつ "浮舟" を基にした戯曲の映画化。

大映カラーとも呼ばれた総天然色のイーストマン・カラーが
煌びやかで美しい平安の世界を浮かび上がらせている。
とりわけ、夜のシーンが
これほど色鮮やかに描かれているのは貴重である。

源氏物語に詳しくない私には
この作品がどれほど脚色されたものかは全く以って不明だが
日本古代の恋愛事情は至極興味深い。

女性を5人6人囲っていることが普通の殿上人{てんじょうびと}。
その典型ともいえるのが皇子である匂宮{におうのみや}であり、
その中にあって、対照的に誠実を貫く薫の君。

匂宮の所業の犠牲者となる右近小納言。
夫に刺され死を間際にしても
"宮さま" と浮気相手の名前を口にする早蕨。
その相手たる匂宮を斬らんことを薫に告げに行くも諭され
右近は自害の道を選ぶ。
生き恥を晒すことを思えば、
身を切り裂かれんばかりに口惜しかったろう。

匂宮の手つきになるのを恐れて婚前交渉を願い出る浮舟だが、
事情を知らない実直な薫は
自分の一途な想いを告げ、我慢してくれるよう説き伏せてしまう。

"体のつながりなどと言うものは、
心の固いつながりの前には蛍火のように脆く儚いものだ"
説得のため薫が口にする言葉は、
現代ではすっかり過去の遺物のように蔑ろにされている
愛の本質をごく率直に表現している。
しかし悲しいかな、浮舟は
一足違いで、匂宮に慰み物にされてしまう。

帝の意に逆らってまで浮舟への愛を貫き
大納言の官位を返上した薫。
泣き崩れる浮舟を前に
薫は初めて、自死した右近の気持ちを理解する。
先に体を奪ってくれなかったと恨み言を言う浮舟。
薫が強調していた精神のつながりは
肉体関係を前にして、やはり脆いものだった。
何ともやる瀬ない気持ちになった。

匂宮の供人と情を通じる浮舟の侍女役には中村玉緒。
ひたすら可憐な侍従を演じている。

浮舟に扮する山本富士子にはほとんど魅力を感じないが、
それは、単に私の好みでないだけの話かもしれない。
冒頭の東国帰りのお転婆ぶりが
京に暮らしを移した大人の浮舟像に全く繋がってこない。

好色の皇子を
雷蔵が見事、卑怯で嫌な男に仕立て上げている。
平安貴族のメイクに眉をつぶした雷蔵の顔は
軽薄さと不気味さを併せ湛えている。

浮舟の名は、死を覚悟して詠んだ和歌
「橘の小島の色はかはらじを この浮き舟ぞゆくへ知られぬ」
(橘の茂る小島の緑のごとくあなたの心は変わらないかもしれないが、水に浮く小舟のごとき私はどこへ漂ってゆくかも分からない)
に因んでいる。

浮舟は入水自殺を図ったであろう、というところで終幕。
幕に描かれた朝靄に煙る山の情景をバックに
浮舟の名を叫ぶ薫の悲しげな声がクリアにこだまする。
美術や効果に意識を捉われるということがなく
ローテクながらも、当時の技術の緻密さを感じさせた。

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