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『めし』 [邦画(マ行)]

「めし」(1951)★★★★☆80点
監督: 成瀬巳喜男
監修: 川端康成
製作: 藤本真澄
原作: 林芙美子
脚色: 井手俊郎、田中澄江
撮影: 玉井正夫
美術: 中古智
照明: 西川鶴三
音楽: 早坂文雄
出演:
 上原謙(岡本初之輔)
 原節子(三千代、初之輔の妻)
 島崎雪子(里子、初之輔の姪)
 杉葉子(村田光子、三千代の妹)
 小林桂樹(村田信三、光子の夫)
 杉村春子(村田まつ、三千代の母)
 風見章子(富安せい子)
 花井蘭子(堂谷小芳)
 二本柳寛(竹中一夫、三千代の従兄弟)
 滝花久子(竹中すみ)
 大泉滉(谷口芳太郎)
 浦辺粂子(谷口しげ、芳太郎の母)
 進藤英太郎(竹中雄蔵、竹中証券社長)
 田中春男(丸山治平、丸山商店の若旦那)
 山村聡(岡本隆一郎、初之輔の兄)
 中北千枝子(山北けい子)
 谷間小百合(鍋井律子)
 立花満枝(鈴木勝子)
 音羽久米子(金澤りう、丸山の妾)
製作・ジャンル: 東宝/ドラマ/97分

めし [DVD]








"無限の宇宙の廣さのなかに
人間の哀れな営々としたいとなみが
私はたまらなく好きなのだ"
by 林芙美子

林芙美子の原作を基に
"めし、風呂、寝る" に象徴される倦怠期の夫婦の姿を
日常の風景の中に、もの静かに浮き彫りにした名作。

監修は何と川端康成。
それだけで文芸の香り高き予感がする。

古い映画を観るとき
時代を感じさせる風物は一つの興味の対象だ。

角に丸みがあってアーチ型をしたバスの天井のフォルム。
そこにも窓がはまっているおかげで、車内がとても明るい。
デザイン的にも機能的にも、この当時の方が優れているなあ
と、憧れにも似た懐古の情に満たされる。

大阪のシンボル・くいだおれ人形が登場すると、
なんかたまらなく嬉しくなってしまう。

貧乏人との結婚を "スリラー的経済" と呼ぶ里子。
実に面白い表現だ。

ところで
原節子の柔和で温かいイメージはどこから来るのだろう?
改めて見つめてみた。
大きな目や口によって強いインパクトを残すのは勿論だが
その理由の一つに、鼻が挙げられると思う。
筋が通っているからこそ美しさは保っているが
その肉感的で柔らか味もある大きな鼻。
包み込むような優しさを醸し出すのは、あの鼻に違いない。
あくまで私論である。

後年に怪優として名を馳せる大泉滉。
英語交じりに里子を口説く軽い乗りが
当時にしては珍しかったであろう
ロシアという異国の血の混じった顔立ちにマッチしている。

上原謙は
原節子を嫉妬させ悲しませるなんて
当時の男性に相当反感を買ったにちがいない。

りうが友人の草履を直すのを見るにつけ
市井の暮らしにも礼儀作法がしっかり根付いていたことを思い
勝手の陰に "礼" や "義" の精神が打ち捨てられている現状を憂う。

映画を観て遅くなり、泊めてほしいとやって来た
わがまま邦題の里子が
見事な正論で信三に叱責されるシーンは痛快至極。
信三の言うことはいちいち尤もで、心から共感できる。

里子はとにかく幼稚なのだ。
自分が一夫と結婚した方が初の輔が幸せになるのでは? と言い放つは、
父の説教を聞きながらも欠伸をするは。
絵に描いたようなわがままなバカ女。
つまりは、そう思わせる島崎雪子の演技の勝利なり。

駅前で子連れで、新聞売りをする友人を見て愕然とする三千代。
女性の自立が普通になった現代を思うと、改めて時代を感じる。

カットのフェイドアウトに俳優に目線を落とさせる演出法は
「噂の娘」でも見られたが
いい意味でも悪い意味でも気になる。

玄関先の靴のカットに、ベースの単音。
本人を登場させずに夫の上京を匂わせる
こちらは素晴らしい演出だ。

大阪へ戻る車中、夫に宛てた手紙を破って列車の窓から捨てる。
"何て書いてあったか知ってらっしゃる?" と投げかけても
"眠いよ" としか返さずに寝に戻る夫。

"私のそばに夫がいる。
目をつぶっている、平凡なその横顔。
生活の川に泳ぎ疲れて、漂って
しかもなお、闘って泳ぎ続けている一人の男。
その男のそばに寄り添って
その男と一緒に幸福を求めながら生きていくことは
そのことは
私の本当の幸福なのかもしれない。
幸福とは
女の幸福とはそんなものではないのだろうか"

このラストモノローグに対して
現代人女性はどう思うのだろうか?

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U3

見てみたくなりました。
by U3 (2010-03-21 10:45) 

ケイイチロウ

ドラマチックとは無縁ですが
静かに訴えかける味わい深い作品です。

機会があれば是非観て下さいっ
by ケイイチロウ (2010-03-21 12:45) 

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