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『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 [洋画(マ行)]

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(2011)★★★★90点
原題: EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE
監督: スティーヴン・ダルドリー
製作: スコット・ルーディン
製作総指揮: セリア・コスタス、マーク・ロイバル、ノラ・スキナー
脚本: エリック・ロス
原作: ジョナサン・サフラン・フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
撮影: クリス・メンゲス
音楽: アレクサンドル・デプラ
プロダクションデザイン: K・K・バレット
編集: クレア・シンプソン
出演:
 トーマス・ホーン(オスカー・シェル)
 サンドラ・ブロック(リンダ・シェル、オスカーの母)
 トム・ハンクス(トーマス・シェル、オスカーの父)
 マックス・フォン・シドー(オスカーの祖母宅の "間借人")
 ヴァイオラ・デイヴィス(アビー・ブラック)
 ジェフリー・ライト(ウィリアム・ブラック)
 ジョン・グッドマン(スタン、ドアマン)
 ゾー・コードウェル(オスカーの祖母)
 ヘイゼル・グッドマン(ヘイゼル・ブラック)
 デニス・ハーン(牧師)
 スティーヴン・[マッキンレー・]ヘンダーソン(ウォルト、錠前屋)
 ローナ・プルース(錠前屋の顧客)
 クロエ・ロウ(馬屋の少女)
 ジュリアン・テッパー(デリカテッセンのウェイター)
受賞:
 放送映画批評家協会賞
  ■若手俳優賞 トーマス・ホーン
製作・ジャンル: 米国/ドラマ/129分

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [DVD]








9/11の遺族を描いたジョナサン・サフラン・フォアの小説の映画化。

監督は「リトル・ダンサー」のスティーヴン・ダルドリー。
「リトル・ダンサー」同様、
主人公の繊細な世界が、
子ども目線で丁寧かつヴィヴィッドに描かれている。

セントラルパークに、ロウアーイースト、ブルックリン。
舞台はニューヨーク市という狭い地域に限定されるが、
9/11で父を失った少年が再起と成長に至る姿を追った
ロードムービーと言っていい。

例によって、予備知識を極力得ずに鑑賞に臨んだので
いきなり放り込まれた9/11にまつわる世界は、
私に様々な記憶を呼び起こした。

9/11、あの夜の最寄り駅から自宅への帰り道の情景。
その一年後に始まった、ニューヨークでの俳優修行生活。
太ったトム・ハンクスにちょっと似ている演技クラスの担当教官。
ストロベリーフィールドからザ・ポンドへ抜けるルートが
アクティングスクールへの通学路だったセントラルパーク。
演技のエクササイズ用に拾い集めたセントラルパークの落ち葉。
アッパーウエストの映画館に米国版「リング」を一緒に観に行った
一学年先輩のニュージーランド人女性。
何度も歩いて渡ったブルックリンブリッジ…

父を失ったオスカーの苛立ちはきわめて激しい。
床の隙間をカリカリ引っ掻いたり、
気を落ち着かせるために携帯しているタンバリンを
延々と鳴らし続けられたりすると、
見聞きしている観客のほうが非常に不快になるほどである。
これはオスカーの傷がいかに深いかを効果的に表わすと同時に、
主人公の目的が張り詰めた "謎解き" であるという性格も手伝って
観客を作品に釘付けにして放さない。

鍵穴捜しに付き合い、オスカーの後をついて歩く "間借り人"。
その彼が、道々メッセージを残しながら
今度は立場を逆にして、オスカーに自分の後を追わせる姿は
劇作家ピーター・シェイファーが
『他人の目』(「フォロー・ミー」として映画化)で用いた構図に等しい。

出来るかぎりの危険を回避するため、
すべて徒歩での移動を貫こうとするオスカー。
そのことに象徴されるように、
9/11以降
自分だけの世界から外へ踏み出そうとしないオスカーの言動。
地下鉄にいざなうなど、
自分が先導することで孫を再生してやろうとする "間借り人"。
地下鉄の車内で防毒マスクを被るオスカーが
言葉遊びを通じて心を開き、マスクを脱ぐさまが嬉しい。

蛇足だが
本作鑑賞後、移動の丸の内線の中
今日が地下鉄サリン事件のあった3月20だったことを思い出し、
小さな偶然にドキッとした。

マックス・フォン・シドーの言葉なき演技は珠玉。
顔に刻まれた味わい深い年輪が、いかに多くを物語ることか。
味わい深い表情から生まれる、
圧倒的な存在感と包み込むような温かみを目の当たりにして
観る者は至福の時間を過ごすことになる。
本作でオスカーにノミネートされたのも納得の演技。

オスカーがモノローグで語るがごとく、
父との距離を縮めるため、鍵穴探しに没頭すればするほど
オスカーと母の距離は離れていく。
しかし実は、母リンダはすべて知った上で、
手を出すことなく、心配し優しく見守っていたのである。
鍵が求めていた物でないと判明し
絶望の淵に突き落とされるオスカーだが、
その狂乱の中にあって、初めてその事実と母の愛を知る。
母が息子に語って聞かせるこのシーンでは
後から後から熱いものが、とめどなく胸を突き上げてきた。

サンドラ・ブロックの出演作を観るのはいつ以来だろう。
すぐに思い出すのは「あなたが寝てる間に…」。
公開当時、渋谷の映画館で観た。
95年のこと、彼女はまだ21歳。
老けるはずだ。
ちょっと昆虫チックな美貌も衰えて然るべき年齢になったが、
母親役が俄然説得力を持つようになった。

オスカーの調査日記の一ページ。
ツインタワーの絵の脇に工作された仕掛け。
リンダがその紐を引くと、
逆再生したフィルムのように
飛び降りたはずの人の姿が、地上からビルの上階へと戻っていく。
少々説明的な印象を拭えないが
オスカーの再生を想起させるシーンである。

孫を傷つけたことで一度は姿を消すも
オスカーの手紙に応えて祖母の元に戻ってくる、
"間借り人" ことオスカーの祖父。
口の利けない祖父同様、
妻たる祖母も、夫にはあえて言葉を発さない。
夫に運ばせんがため、自分の荷物を廊下に置きざりにすることで、
祖母が夫を再び受け入れたことを示す場面は
些細なやりとりだが、愛に満ちたステキな瞬間。

9/11が残した傷痕を喪失感の形で描くにとどまらず、
家族愛・人間の絆を描くまでに昇華させた。
泣き笑いするシーンも満載。
温かく他人を見守る、優しさあふれた秀作。

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