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『ピエロの赤い鼻』 [洋画(ハ行)]

「ピエロの赤い鼻」(2003)★★★★85点
原題: EFFROYABLES JARDINS
監督: ジャン・ベッケル
製作: ルイ・ベッケル
原作: ミシェル・カン『ピエロの赤い鼻』
脚本: ジャン・ベッケル、ジャン・コスモ、ギョーム・ローラン
撮影: ジャン=マリー・ドルージュ
音楽: ズビグニエフ・プレイスネル
出演: 
 ジャック・ヴィルレ(ジャック・プゼ、教師)
 アンドレ・デュソリエ(アンドレ・デサンジ、帽子工)
 ティエリー・レルミット(ティエリー・プレザンス、保険代理人)
 ブノワ・マジメル(エミール・バイユール)
 ヴィクトール・ガリビエ(フェリクス・ジャルビエ)
 シュザンヌ・フロン(マリー・ジャルビエ、フェリクスの妻)
 イザベル・カンディエ(ルイーズ)
 ニナ=パロマ・ポーリー(フランソワーズ、ジャックの娘)
 ダミアン・ジュイユロ(リュシアン、ジャックの息子)
 ベルニー・コラン(ベルント "ゾゾ"、ドイツ兵)
製作・ジャンル: フランス/ドラマ/95分

ピエロの赤い鼻 [DVD]








サーカス同様
ピエロというだけで、その裏にペーソスを感じてしまうが
この物語もピエロという存在をキーに哀愁の漂う映画となっている。

ストーリーは、二次大戦後のフランスを現在に置き
子どもへの昔語りとして、ドイツ占領下のフランスに時間を遡る。

ピエロを演じるために縁日へ出かける。
仕度をし、車で友人を拾い、会場に着くまでの短い間に
ジャック、アンドレ、ティエリーの人柄・人間関係が分かってしまう。
脚本以上に、俳優陣の人間的魅力と演技力の賜物である。

また、後になって悟ることだが
ジャックの妻が観客に正体を知れないよう、
地味なファッションでその慌ただしいシーンに紛れていることは
観る者にとって大きな幸いである。
(目ざとく気づいてしまった人は残念。人間、時に鈍感こそ幸いということがある)

主役のジャックとアンドレを演じる2人の俳優。
役名と同名だというのも何か運命じみたものを感じる。
また、ジャック・ヴィルレは既に故人だそうだ。
こんな素敵な俳優を50代半ばで奪ってしまうとは
天も罪なことをするものである。

小道具で一つ私の目を引いたのは
冒頭、ジャック一家が乗り込む黄色い小型自動車。

Dyna.jpg

その名をパナール・ディナ(Panhard Dyna)58年型。
丸っこい流線型のフォルムがしなやかさと美しさを兼ね備える。
さらには
中央のピラーを軸に前後のドアが外側に開くイカしたデザイン。
普段、車と無縁な私でも欲しくなってしまう。

日常のつまらぬ屈辱を恨みに
人の命を奪うかもしれない人質指名を
敵に与して行ってしまう人間がいたという設定も
悲しいかな、現実にもあったにちがいないと思うと恐ろしい。

"生きているかぎり希望がある" と伝える独兵ベルントが
上官に反抗してあっさり命を落とすのは辛い。
銃殺時にベルントの鼻から外れ、
ジャックたちが捕らえられている穴に転がり落ちる赤い付け鼻。
とても重要なアイテムの一つだ。

生前、見張りとしてジャックたちと交流を図るベルントが
小さなアコーディオンを手に口ずさむ主題歌。
シャルル・トレネの "Y'a de la joie(喜びあり)" は
フランス人なら誰でも知っている名曲なのだろう。
赤い鼻とともに、胸をジワッと温めるラストを飾ることになる。

親友のために、
恋愛の駆け引きから身を引き独身を貫くアンドレ。
その友だち想いはいじましくさえ思える。
フランス物だけに、「シラノ・ド・ベルジュラック」を思い出したりした。

優しい人ばかりの間で
ちょっとした冒険から起きてしまった悲劇。
それを乗り越え、生きる喜びを取り戻していく源も
やはりそのあふれんばかりの優しさだったのだ。

オーラスで涙がこみ上げてきた。
息子リュシアンが
感涙を湛えながら父の演技に泣き笑いする姿を目にしては
その涙をこらえ切ることはできない。

決して派手な作品ではないが
秀作と言って差し支えない作品である。


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