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『噂の娘』 [邦画(ア行)]

「噂の娘」(1935)★★★★☆60点
監督・脚本: 成瀬巳喜男
撮影: 鈴木博
録音: 道源勇二
美術: 山崎醇之輔
音楽: 伊藤昇
演奏: PCL管弦楽団
出演:
 御橋公(健吉、灘屋酒店店主)
 汐見洋(啓作、健吉の義父)
 千葉早智子(邦江、健吉の長女)
 梅園龍子(紀美子、健吉の次女)
 伊藤智子(お葉、健吉の二号)
 藤原釜足(叔父)
 大川平八郎(新太郎)
 三島雅夫(山本理髪店)
 瀧澤修(理髪店の客)
 大村千吉(灘屋酒店店員)
 水上玲子(紀美子の友達)
製作・ジャンル: ピー・シー・エル映画製作所/ドラマ/55分

1.jpg

凋落の道を歩む老舗の酒屋を舞台に、悲喜こもごもを描く。

大変遅まきながら
これが私の成瀬巳喜男デビュー。

千葉の和顔は落ち着く。
彼女の演技は周りを安心させる母性を感じる。
他の役者に比べて、台詞回しも格段に自然で
安心してキャラクターに感情移入していける。

長女は父を思い、家族を思う。
長子らしい実直で気配りの厚い姿を見ると
古き良き日本の家庭に思いを馳せる。
良くも悪くも、今時の長男・長女は、
そういった役割を背負うことは少なくなった。
かく言う私もその一例。

カット終わりの
千葉の目線の変化、あれは意図的な演出に思える。
同じパターンが一度ならずあり、
一度なら粋に思えることも
何度も見せられることで、陳腐に成り下がる。
情感のある千葉の演技を逆に殺してしまう。

演技もカット割りもノッキングを起こしているような印象。
引きの画よりもパーンを使っていることもその一因。
カメラマンの手ぶれや引き戻しなど、
技術の甘さもそれを助長している。

また、これは多分に好みの問題であるが
家具屋の家具、おでん屋の暖簾など、
話の中に出てくる指示名詞の対象を
一々スポットで捉えるカメラワークが気に入らない。
心情を代弁するために用いた小津の情景カットとは
まったく意味合いを異にする。

隠居の身である啓作の存在がポイントとなっている。
遊んだ人間の鷹揚さが、
冷静に、だが優しく登場人物たちを見つめているのがいい。

この作品は
チェーホフの「桜の園」を下敷きにしていると聞く。
しかし、ロシアや英国のような階級の存在しない日本に
その没落の悲哀を投影することは難しい。

フィルムのせいか、滑舌のせいか
代 "れ" られるに聞こえるが
「何、看板が代えられるだけだよ」
という、啓作の達観した台詞が何とも物悲しく
ここに、階級に関わらない哀切が集約されているように思う。

"次、どんな店構えになるか"
理髪店店主と客が賭けよう、と話すラストシーン。
所詮は他人事、他人の不幸を慰みにする
いかにも、庶民的で俗な残酷さが効いている。

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