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仁義なき思い出 [日記]

菅原文太さんが亡くなった。

健さんに続いて、また一人
昭和を背負った映画俳優が消えていった。

まだ駆け出しの頃
火曜サスペンスで科捜研の研究員に配役された私は
パソコンで指紋照合するシーンを演じた。

早朝の寒いセットの中、椅子に腰掛け
助監に付き添われて、パソコンの操作を練習していると
いきなり後ろから声が飛んできた。

「それは何をするもんじゃい」

声の主は誰ぞ、と振り返ると
それが文太さんだった。

今から15年以上前、
パソコンがさほど普及していない頃の話だ。
カチカチと音を立ててイジっている物について訊かれたのだと思い
「パソコンを操作するマウスという器具です」と答えた。

それに対して、はっきりした返答はなかったように思う。
ただ、文太さんの顔からは怪訝な表情だけが見て取れた。

私の登場シーンに文太さんが出演されていたかどうかも
そのシーンがカットされずに放映されたのかも
まったく覚えてはいない。

閑散としたセットの中に響く渋い声、
力強さを感じる白髪、深く刻まれた額の皺。
私の脳裏には、その画が今も鮮明に残っている。


思えば、
同じドラマに出演されていた田中実さんも、すでに鬼籍の人だ。

「セット、寒いですから、上着を持って行かれたほうがいいですよ」

一足先に撮影に入っていた彼は
朝ドラで脚光を浴びたエリート俳優ながら、
同じ楽屋になったというだけの名もなき端役に対し
実に丁寧な口調でアドバイスをくれた。


こうした他愛もない小さな思い出。
その積み重ねを人生と呼ぶのではないだろうか。
今、そんなふうに感じている。
 
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